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下水道機構だより > 連載8
下水道の地震対策 /下水道機構 研究審議役 兼 研究第一部長 藤木 修
 フランスのドビルパン首相の執務室には「大切なものは目に見えない」という言葉が壁に掲げられているのだそうです。いうまでもなく、サン=テグジュペリ著「星の王子様」の一節です。普段人目につかないために、ほとんど注目されることがないけれども、下水道が都市のなかでどんなに大切な役割を果たしているか、星の王子様なら分かっているに違いありません。

 目に見えない大切なものは、無くなって初めて、その大切さに気がつくものです。昨日まであった下水道が今日は無くなってしまうなどということはあるはずがないとお思いになるかもしれません。しかし、それはあるのです。

 典型的な例が、大地震などの災害によって、下水道がその機能を果たすことができなくなった時です。下水道が被災してその機能が失われると、一般に、以下のような影響が表れると考えられます。

(1)下水道は、流域の水循環の一部を構成しています。したがって、たとえば下水処理場が破損して未処理の下水が河川などに放流されると、その影響は当該都市内にとどまらず、下流側で水道水の供給がストップしたり、貴重な生態系が損なわれたりといった具合に、下流域全体に及ぶ可能性があります。

(2)下水道は、市街地から汚水を排除するという重要な機能を持っています。したがって災害で管きょや中継ポンプ場が破損すると、まちのなかに汚水が溢れ、都市の衛生環境が悪化して伝染病などが発生する可能性があります。また、雨水管きょや雨水ポンプ場の場合には、小さなにわか雨でも重大な浸水被害に結びつくかもしれません。合流式下水道では、浸水被害と伝染病被害の両方を心配する必要があります。

(3)大地震によって水道が止まるということは十分に考えられることです。人々の関心は、一般に、飲み水をはじめとする生活用水をどのように調達するかということばかりに向きがちです。しかし、1995年の兵庫県南部地震や2004年の新潟県中越地震の経験から、実はトイレが最も切実な問題のひとつであることがわかってきました。水道の機能が復旧しても、下水道が壊れていたら、やはりトイレは使えません。トイレの問題は、とりわけお年寄りや女性にとって大きなストレスの要因となります。

(4)新潟県中越地震では、地盤の液状化等によって、数多くのマンホールが突出したり路面が陥没したりするといった被害が発生しました。このような被害は、下水の排除という下水道の本来の機能を損なうばかりでなく、被災住民の避難や震災後の救援活動を行ううえで大きな妨げになります。鉄道を横断する管きょが被災した場合には、その影響はもっと大きなものとなるでしょう。

 新潟県中越地震を受けて、国は「下水道地震対策技術検討委員会」を設置し、昨年8月に今後の地震対策のあり方に関する報告書をまとめました。さらに続けて、「大規模地震による下水道被害想定検討委員会」において、大規模地震が発生した場合の下水道施設の被害想定手法や被害想定の活用方策について検討が進められています。

 また、平成18年度より、「下水道地震対策緊急整備事業」がスタートしました。地震対策に取り組む必要の高い地域において、「下水道地震対策緊急整備計画」を策定し、これに基づいて事業を行う場合には、関連する下水道施設の補助対象範囲が拡大されるという特典が与えられます。国土交通省からはすでに、「下水道地震対策緊急整備計画策定の手引き(案)」が出されています。近年の大地震を受け、多くの都市において、地震対策は待ったなしの行政課題になっているのではないでしょうか。もっとも、これまでは下水道行政としてどのように取り組んでよいか分からないといった場面もあったように思われます。今や、国から一連の基本的指針が示され、下水道における地震対策の支援施策が打ち出されたわけですから、今度は自治体が、下水道管理者としての責務として、具体的に行動することが求められているといえましょう。

 新潟県中越地震以降の国の取り組みにおいて、下水道機構は、国の設置した検討委員会の事務局を務めるなど、重要な役割を果たしてきました。さらに、昨年度は12の自治体と協力して、下水道の地震対策に関する調査研究を行いました。一口に地震の被害想定やその対策といっても、具体的な方法論についてはまだまだ研究の余地があります。被害想定の分析方法はもちろん、個々の都市や地域の問題意識に対応して、新しい方法を開発する必要に迫られる場合もあります。


 下水道機構は、本年度も多くの自治体と、この分野で共同研究を行うこととしております。共同研究の成果は、共同研究を行う自治体同士が共有することになりますので、幅広い分野を効率的にカバーすることができるのです。 下水道の地震対策について調査研究をお考えの自治体で、何かお困りのことがあれば、何でもお気軽に下水道機構にご連絡ください。当機構では、できる限りご相談にお応えいたします。また、より深く検討するため、当機構と自治体との共同研究の輪に参加したいというご希望があれば、いつでも歓迎いたします。